ホスピタルレポート-現役医師に密着- 第8回 内視鏡診療

食べ物が胃の手前で詰まる病気を高度な内視鏡による手術で治す

福島県立医科大学附属病院 助手
中村 純 医師

内視鏡によって治療できる病気の範囲が広がっている。この内視鏡の腕を磨き、「食道アカラシア」という食べ物が胃の手前でつかえてしまう病気を、内視鏡で治療できる医師がいる。常に新しい治療法を身に付け、患者が快適な毎日を送れるよう努力を続ける医師の姿を紹介する。

中村 純 医師
福島県立医科大学附属病院
助手 中村 純 医師

1979年山形県米沢市生まれ。2005年福島県立医科大学医学部卒業。同年、山形県立中央病院で初期研修。09年本学消化器内科などを経て、15年4月より昭和大学江東豊洲病院消化器センターへ留学。17年4月より内視鏡診療部助手。日本内科学会認定医、日本消化器内視鏡学会専門医、支部評議員などを務める。

内視鏡は、細長い管の先端に小型カメラを付けた装置で、胃や大腸まで入れて、内部を観察したり、治療したりするのに用いられる。消化器分野では食道や胃、十二指腸(上部消化管)、小腸や大腸(下部消化管)、胆管などほとんどの消化器の病気を内視鏡で検査、治療できる。特に、胃がんや食道がんの早期発見が可能になり、さらに内視鏡の新しい治療法が次々に開発されており、内視鏡の守備範囲は広がり続けている。

新技術の1つに「POEM」(内視鏡的筋層切開術)がある。この手術は高度な技術が必要で、全国でも数えるほどの施設でしか実施していない。そのうちの1つ、福島県立医科大学附属病院でPOEMを実施しているのが、内視鏡診療部助手の中村純氏だ。「POEMは食道アカラシアという病気の治療に使われる。東北地方でPOEMができるのは、当院と東北大学病院の2カ所だけ。手術を受けに遠方から来院する患者さんも多い」と中村氏は話す。

食道アカラシアとはどんな病気か、そしてPOEMとはどんな治療法なのだろうか。

食べ物が胃の手前でつかえる病気。食道の筋肉を内側から切開する

食道アカラシアは、食道の筋肉がうまく動かず、食べ物が胃に届きにくくなるため、胃の近くの食道に食べ物がつまってしまう病気。胸のつかえ感や痛みがあり、食後に横になると食べ物が口や鼻に逆流することもあるという。患者は、一口食べては水やお茶を飲んで食べ物を胃に送り込まなければならない。「生きるために義務のように食べているので、食事を味わえず、生きていくのが辛いと話す患者さんもいる」と中村氏。

食道アカラシアの治療には「バルーン拡張術」がある。これは口から胃の近くの食道に風船状に膨らむ器具(バルーン)を入れて食道を拡げる治療。この方法で多くの患者の症状は改善するが、半年~1年で元に戻ってしまう人も少なくない。そうした場合に行うのがPOEMだ。

食道は、2つの筋肉の層でできている。内側の筋肉(内輪筋)はリング状で、その外側を縦に走る外縦筋が覆っている。POEMは、うまく広がらない内輪筋だけを切開する手術。内視鏡で内輪筋のさらに内側にある食道粘膜の下に水を入れて、粘膜を浮き上がらせ、内視鏡を通す穴を開ける。次に内視鏡を粘膜の下に入れ、"トンネル"を掘るように内視鏡を進め、トンネルができたら、その下の筋肉を切開する。そのあとは、内視鏡を抜き、入り口をクリップで閉鎖する(図参照)。

出典:Inoue H, et al. Peroral endoscopic myotomy(POEM) for esophageal achalasia.Endoscopy.
2010;42:265-71より改変引用

言葉では簡単そうだが、中村氏は「最初はとても難しかった。トンネルを掘ると、薄い筋肉を透かして心臓が動くのが見える。少しでも傷つけると心臓や肺に影響が出てしまうと考えると緊張した」と話す。

中村氏はこの高度な技術を、POEMの開発者である昭和大学江東豊洲病院の井上晴洋氏のもとに1年間"弟子入り"し、学んだ。2016年4月に福島県立医科大学附属病院に戻り、POEMによる治療を開始し、これまでに30人以上を治療してきた。

消化器内科で内視鏡の面白さを知る。困っている人を1人でも多く助けたい

中村氏は、福島県の隣の山形県米沢市の出身。県立米沢興譲館高校から医学部を目指した。「父が薬剤師で、子どものときからお客さんと処方せんや薬のやり取りをするのを見ていた。自然に人助けができる仕事をしたいと考えていた」と中村氏。しかし、現役のときには新潟大学を受験し不合格に。仙台市内の寮のある予備校に通い、「同じ目的の仲間が集まっているので大いに刺激され、一生懸命勉強した」。しかし、センター試験の成績が今一つだったが、二次試験まで諦めずに努力を続け、福島県立医科大学に入学することができた。

「受験の面談では小児科医になりたいと話した」中村氏だが、5年生からの病院実習で学んだ消化器内科の医師の話が面白く、特に内視鏡による検査や治療の世界に惹きつけられたという。

卒業後は、福島県立医科大学附属病院ではなく、山形県立中央病院で初期研修を受けた。そして後期研修も同病院の消化器内科で2年間学んだ。「内視鏡治療の実績が多い病院で、後期研修医でも新患外来を担当し、主治医となって患者さんを見守った。無我夢中で2年間を過ごした」と中村氏は振り返る。

ただ、「今思えば、忙しすぎた。上司の先生がほかの病院に異動したこともあり、これまでの医師生活を見直そうと考えた」中村氏は、福島県立医科大学附属病院で改めて消化器疾患の診断と治療を学び直す決心を固めた。大学病院では勉強すべきことが多かったという。例えば、診断の過程(臨床推論)を科学的根拠に基づいて行うことを改めて学び、身に付けた。県立中央病院では一人主治医制だったため、自分がすべての責任を負って診療を行っていたが、大学病院ではグループとして患者の診療に取り組む。「ほかの医師と診断のための鑑別法や治療方針などについて意見を交わすことは、大きな刺激になった」と中村氏は話す。

そして、それまで多くの内視鏡手術を手がけてきた技術の高さを買われ、2013年には1年間、国立がん研究センターへの留学が認められ、食道がん、胃がん、大腸がんの最新の治療技術を学んだ。

さらに2015年には内視鏡診療部部長の引地拓人氏が、食道アカラシアの新しい治療法であるPOEMを中村氏に学ぶよう、昭和大学への留学を命じた。「それまでバルーン拡張術で治らない患者さんは東京の病院に紹介していた。福島の人の病気は福島で治したい」という点で中村氏と引地氏の考えは一致しており、中村氏はすぐに東京へ向かったのである。

「食道アカラシアによって命を奪われることはない。しかし、毎日の生活に困っている人がいるなら、一人でも多く助けたい。そのためには、常に新しい知識や技術を身に付ける努力が必要。人を助ける仕事に就きたいという思いは、今も変わっていない。これからも努力を続けていく」と中村氏は前を向く。

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