ホスピタルレポート-現役医師に密着- 第3回 感染予防医学

院内感染防止に24時間体制。感染症の専門医育成に注力

富山大学大学院医学薬学研究部 感染予防医学講座
教授 山本 善裕 医師

病気を治療する場である病院には、感染への抵抗力が低い患者が多い。そのため入院患者が新たに感染症になる「院内感染」の可能性も高い。
この院内感染を予防するため、環境を清潔に保ち、薬剤耐性菌を生み出さ ない活動を行うのが「感染対策チーム」である。
このチームを率い、24時間365日の対応を続ける医師の姿を紹介する。

教授 山本 善裕 医師
富山大学大学院 医学薬学研究部
感染予防医学講座
山本 善裕 医師

1967年長崎県生まれ。1991年3月長崎大学医学部卒業、同年6月同大学医学部第二内科入局。97年3月同大大学院修了、学位取得。97年4月より長崎県立島原温泉病院、佐世保市立病院などに勤務したのち、2007年4月長崎大学第二内科助教、11年6月同准教授。12年9月に富山大学感染予防医学講座教授に。

木曜日の午後1時、富山大学附属病院5階の北病棟のナースステーション前に、モスグリーンのそろいのシャツを着た医師の一団が集合した。白衣の看護師、薬剤師、臨床検査技師も合わせると総勢10人である。そして、まずサニタリールームの点検を始めた。

サニタリールームには、病室から出るゴミなど通常の廃棄物、患者の血液などが付着した感染性廃棄物、汚物などをすべて集める部屋のこと。感染源になるものをすべて1カ所に集めて処理し、入院患者や医療スタッフへの感染の危険性を下げる重要な役割を果たす部屋と言える。

チームを率いるのは、感染予防医学講座教授の山本善裕氏である。山本氏らは、室内が整理整頓されているか、清掃が行き届いているか、廃棄物が適切に処分されているかなどをチェックした。続いて、ナースステーションに置かれている点滴調製台の清潔さ、薬剤の適切な管理などを点検し、問題があると思われる点について、病棟の看護師らと相談しながら解決策について話し合った。

院内感染を防止する対策と感染症の的確な診療が両輪

山本氏が率いるチームは「感染対策チーム(Infection controlteam :ICT)と呼ばれる。病院などの医療施設で、院内感染の予防を担当するチームで、医師・看護師・薬剤師・臨床検査技師・事務職によって構成される。富山大病院では、山本氏をはじめとする感染制御部に所属する医師4人、看護師2人、薬剤師2人、検査技師2人でICTを構成する。医師は、インフェクションコントロールドクター(Infection Control Doctor :ICD)という資格を持つ。これはICD制度協議会が認定する専門資格だ。また、看護師は感染管理看護師(Infection ControlNurse :ICN)として日本看護協会が認定する資格を持つ。こうした感染管理の専門職がICTの中心メンバーとして、院内感染の予防策を立て実行する。

ICTによる病棟の点検は「環境ラウンド」と呼ばれ、病院内の環境が清潔かどうかを巡回して調べる。ラウンドの頻度やラウンドする人数は病院によってさまざまだが、富山大病院では、感染制御部に所属するすべての医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師が、毎週1回ラウンドする。環境ラウンドは、ICNが年間計画を立てて実施しており、1つの病棟を年に3回以上ラウンドする。

多くの病院ではICTの活動が院内感染予防策の主軸になっている。しかし、富山大病院では「感染症科が、感染症に対する抗菌薬の適正使用を推進しており、ICTと感染症診療が両輪となっている」(山本氏)ことが特徴だ。

ICTと感染症診療部門が連携するようになったのは、2012年9月に感染予防医学講座の教授に山本氏が就任した以降で、その後、病院の感染対策は急ピッチで進展してきた。なかでも薬剤耐性菌を生み出さないためには、抗菌薬の使い方についての各診療科の医師の協力が欠かせない。山本氏は就任直後から、24時間365日のコンサルテーションを開始した。感染症患者、感染症予防、針刺し事故について対応することをポスターにまとめ、すべての外来、病棟だけでなく、看護部、薬剤部、厨房にも貼り出した。コミュニケーションを図るためにスタッフの顔写真とともにそれぞれの院外でも対応できるPHSの電話番号を載せた。

当初、院内からコンサルテーションの依頼があったとき、「では、今からうかがいます」と山本氏が返答すると、相手は「こちらに来てくれるんですか」と驚いたという。「とにかく現場に行く。主治医とface to faceで話すことが重要。電話やメールではお互いの表情が見えず、話が通じにくいだけでなく、ときに誤解を招くことにもなる」と山本氏は〝現場主義〞の意義を説く。

こうした積み重ねが評価され、2013年6月に感染症治療部は「感染症科」と標榜し、週2回の専門外来診療を行い、専用の病床3床を持つことになった。スタッフも、山本氏が就任時は1人だったが、現在は教授、准教授、診療助手2人の計4人体制(全員がICD)と充実した。

「患者さんを大切にする」との教えを常に実践

山本氏は、父親が内科医であったことから「ごく自然に医師になろうと思った」。父親と同じ長崎大学に進み、同じ第二内科に入局した。当時の第二内科は、呼吸器内科、消化器内科、循環器科、腎臓内科をカバーし、「入局すれば事実上のスーパーローテートになった」(山本氏)という。

研修医1年目に、半年間、大学病院に勤務した後、佐世保市立総合病院に8カ月間勤務することになった。そこで出会ったのが、当時、呼吸器内科部長だった須山尚史氏(現・長崎みなとメディカルセンター市民病院副院長)である。須山氏は「心から患者さんを大事にする医師だった」(山本氏)。たとえば、他科の入院患者で肺炎になった患者がいるとすぐに駆けつけ、主治医と同様に寄り添って診療した。自分が関わった患者が亡くなったときには、科を問わず、必ず玄関に出て車を見送ったという。「そういう医師になりたいと決め、努力してきた」山本氏が医師になって9年目、呼吸器内科科長として再び佐世保市立病院に赴任する。ここで7年間、山本氏は呼吸器内科医、感染症専門医として勤務し、患者を大切にする診療を実践するとともに、同じ教えを説きながら後進を育てた。「教育することの重要さもここで学んだ」と山本氏。

そして2007年に第二内科助教として長崎大に戻り、2011年には准教授となった。その山本氏に、富山大学の教授選に立候補しないかという話が舞い込んできたのは2012年のこと。長崎大の第二内科は、全国各地の大学に呼吸器科・感染症科の教授を30人以上輩出してきた〝名門〞だ。

生まれも育ちも長崎市で、大学も長崎大学、関連病院の勤務もすべて長崎県内、富山とは縁もゆかりもない山本氏だったが、「これも出合い。求められたら、どこへでも行く」と即断で教授選考に応募した。そして、2012年9月に富山大の感染予防医学講座と感染症治療部の教授に就任した。

最後まで責任を持つことの大切さを教えるのに腐心

山本氏は赴任直後から、富山大学病院の感染対策を大きく変えてきた。先述した、感染症患者、感染症予防、針刺し事故などについて、24時間365日対応する体制にしたのもその一つ。就任翌年の13年6月には、感染症治療部を「感染症科」という診療科に〝昇格〞させ、さらに14年10月には、院内感染予防を行う組織を感染対策室から「感染制御部」へと格上げし、業務内容も根本的に見直した。

特に山本氏が充実させてきたのが、抗菌薬を適正に使って治療効果を上げ、患者のQOL(生活の質)を改善する体制だ。これは、「抗菌薬適正使用支援チーム(AST)」と呼ばれ、薬剤耐性菌を作り出さないためにも重要となる。「感染予防については、私の着任前からICNを中心にしたICTがしっかり活動していた。しかし、病院内の感染対策は、感染症診療部門が機能し、ASTがICTと両輪になることが必要」だと山本氏は言う。

さらに山本氏は、教育にも力を入れている。山本氏の教室は医学部では「感染予防医学講座」、大学病院では「感染症科」と呼ばれている。感染予防医学講座は「基礎医学」に属し、細菌学・真菌学・原虫学・寄生虫学を担当、医学部3年生に年間30コマの講義を担当する。一方、大学病院では「臨床医学」の診療科として感染症学・感染制御学を担当し、医学部4年生に年間30コマの講義のほか、5・6年生には臨床実習も行っている。「基礎、臨床の両面を担当している教室は全国的にも珍しい。基礎から臨床まで微生物・感染症について一貫教育できるのがメリット」だ。

ただ、教育では苦労も少なくないという。特に「『医師としての責任』について教えることが難しい」と話す。臨床研修の必修化以来、研修プログラムは年々充実してきたが、同時に〝研修医の学生化〞が進んでいるという指摘もある。「自分たちは守られた存在だという考えを捨て、自分の行動と結果に責任を持てるようになって初めて一人前。患者さんを家族のように大切にし、その人の診療に責任を持てる医師を育てていきたい」と山本氏は抱負を語る。

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